割礼・ちょっといい話 当サイトではまるでそれが「豆まき」「夏休み」「餅つき大会」と同レベルの頻繁さで使用される日本語であるかのように「割礼」という単語を連発して参りましたが、先日ふと思いました。 「割礼」って一般には「ウエット&メッシー」(※)と同レベルでなじみの薄い単語かも?! そこでわざわざ図書館まで行って広辞苑をメモってきたのが上掲の説明。なるほど「切り取る」んですね!「切り取る」のか「切れ目を入れる」だけなこともあるのか、そこらへん私も少々自信なかったのですがこれで一つ賢くなりました。 さて、私が一番最初に「割礼シーン」に接したのは小学校低学年の頃。 当時一大ブームを巻き起こし、当時の日本人の潜在意識にまだ見ぬ奇妙な世界の風習への驚きと憧れ、自然破壊への怒りそして世界中にまんべんなく生息するド変態の引き起こした陰惨な事件への恐怖心を植え付けた映画、それがヤコベッティの「世界残酷物語」。 名曲「モア」に乗ってこれでもかと繰り広げられる世界中から集めたグロいシーンは、映画館やお茶の間の善男善女を震え上がらせたものです。まぁ後にかなりの部分がヤラセだったと判明したのですが・・・ そういえばそれからしばらく後にもノンフィクションと銘打ったエログロ映画が流行った時期がございました。アイキャッチャー(映画ポスター)からいきなし串刺し人間な「食人種」とか、題名は忘れましたがアミン大統領の邸宅の冷蔵庫を開くとやおら政敵の生首が入ってる映画とか・・・今ではリアルワールドの死臭がフィクションの香りを上回っているもので映画が作りにくいと耳にすることもありますが、当時はエログロフィクションのユートピアだっんですね。 おっとすっかり話がそれてしまいました。割礼でしたね。 小学校低学年でも「世界残酷物語」を見せてもらえるという、エログロナンセンスにはおそろしく寛容だったミキ家。記憶をなぞってみても、回りにエログロな資料が溢れすぎていてこの映画の記憶はほぼ皆無・・・ 今撮影・紹介されると人権問題に発展しかねない「アフリカ原住民」の奇妙な風習の数々。その内の一つとして取り上げられていたのが割礼でした。 そこらの道ばたで拾ってきたような丸太にチンコを乗せられ、消毒という観念の彼方にある見るからに切れ味の悪そうなナイフで包皮をゴリゴリ切除され、恐怖と痛みに泣き叫ぶ少年・・・ 前置きが長くなりましたが、そのように「割礼」に対して言いしれぬもやもやした憧憬を抱いていた私が、長じて古代エジプトに興味を持つようになって目にしたこの記述に目を奪われても、決して責められるものではないでしょう。 「彼らは清潔のために割礼を施す。見た目よりも清潔を重んじるからだ」 え〜っ??!!みんなムケてたのかぁ??!!(驚) そこで私は古代エジプトの割礼に関する資料を懸命に探し始めました。下ネタの前では常に全力投球です。 しかし話題が話題だからなのか、それとも残存する資料が少ないからなのか、「セビ」と呼ばれたこの習慣に関しては、一般書レベルではほとんど取り上げていません。 <どうして割礼をしたの?> そもそも古代エジプトでは、「アソコを清潔に保つため」という目的ではなく、通過儀礼の一種として行われていたと考えられるそうだ。 <すべての少年が割礼を施されたの?> 古王国時代のマスタバ壁画に描かれた労働者や職人の中には、割礼を施していない人物描写もたくさんあるということから、少なくとも古王国時代には強制だったのではなさそうだ。 <何歳くらいで施術したの?> 正確な記述はなく、漠然と10歳から20歳の間とされている。 それにしても学問のためだとはいえ、安らかな眠りをさまたげられた上にチンコ調べられるとは王子もお気の毒に・・・怨まないでね、学者のおじさん達を。 <手術方法は?> 鋭利な金属製のナイフが制作されるようになってからも、ミイラ作りのため遺体の内臓を掻き出すためのものと同じフリント(火打ち石)製のナイフを使って行われた。この事実からも、割礼は宗教儀式として行われたと考えられるとのこと。 現存するレリーフにより、包皮切除後は軟膏のようなものを塗ったのではないかという説もあるが、これについては明白な結論は出ていないそうだ。 <子供の頃に切らなかったらどうなるの?> 仮性包茎と真性包茎では手術の必要性が異なって・・・と具体的な知識は○○クリニックのHPでゲットして頂くことにして、現代と同じく包茎は悩みの種だったのかどうかは、古代エジプト人に聞いてみないと分からない。ただ、原題の包茎手術には20万円もかかるそうだ・・・いっそカッターナイフでスパッといっとけ。 ただ、話を神官に限定すれば、ストロウハルは「古代エジプト生活誌」(1992)で「若い内に割礼を済ませていない人間が神官になろうとする場合は、手術を受けない限りその職に就けなかった」という美味しい情報を提供してくれている。 この本の中ではこれがどんな資料に基づく物なのかが記述されていないのが残念だが、私としてはとりあえず、 <割礼図ってどこで見られるの?> 少なくともカイロ博物館にはございません。→※ 現存する割礼図像はただ二例が発見されているのみーサッカラのアンクムアホルの墓(第6王朝)とカルナックのムート・エン・アシェルウの神殿ーである。 残念なことにアンクムアホルの墓は現在クローズ中でナマレリーフは鑑賞できないが、サッカラのマスタバ墳周辺には10枚ワンセットの印刷の悪い絵ハガキを売るアンちゃんが出没する。その中に割礼図の写真が入っているので、日本で待つお友達のためにぜひ購入して喜ばせてあげよう。 ・・・と「神官はムケていた」という点に確信を持ちたいが為にいろいろ調べてきてふと気づきました。 ヘロドトスってかなり新しい(遊戯王の舞台モデルになった新王国と比べればだが)人だったよなあ・・・ そう、彼がエジプトを回ったのは紀元前450年頃。遊戯王の舞台は18ー20王朝(時代推測については項を改めます)。かなりの間があいてますな。 いずれにせよ、現時点では割礼に関するこれ以上の書籍資料は見つけられませんでした。間もなく到着予定の海外文献でなにか美味しい情報が得られれば、また改めてご紹介いたします。 さて、ここまで長々と述べてきましたがいかがだったでしょうか。え?「私は皮かぶってる方が好き」って?・・・まぁ海外には「包茎愛好家向けゲイ雑誌」も存在するくらいですので、かぶってるのに愛くるしさを感じる方がいらっしゃるのも当然ですね。 いずれにせよ「下ネタを愛する気持ちは世界共通」だといつも(心の中で)繰り返しておりますが、先日のエジプト旅行でその感 この図版はアンクムアホルの墓にあるレリーフをモチーフとして作られたポストカードなのですが、販売地域によって色やラインが微妙に違ったコレが津々浦々の土産物屋にて採取されたという事実。 おまけに、ツアーで連れて行かれた高価なパピルス屋でもこの光景を描いたパピルスが売っているのをみると、割礼には国際的に根強い人気があるとみえます。 最初は「こんなんわざわざ買うヤツおるんか?!」と思いましたが、20ドルと聞き思わず自分が買いそうに・・・ゲイのアメリカ人観光客がシャレで買って帰ってトイレに飾ってそうだな。 <おまけ・知ってるとちょっとお得な情報> 現代に於ける割礼事情 <トルコ> 5歳ころに施術。手術当日、少年はギラギラに金モールを散りばめた三つ揃いとケーブそして王冠というブルネイの皇太子ばりのファッションをさせられ「そこどけそこどけ!」とクラクションを鳴らしまくる車に乗せられ医者の元に連れて行かれる。町中でもこのスゲェ割礼用衣装の専門店をよく見かけた。 そしてコトが終わった後、痛い目に遭って泣きそうな少年には玩具でも買い与え、親族がどんちゃん騒ぎをする・・・それがトルコの「スィンネット」と呼ばれる割礼の儀式である。 <パキスタン> 理髪店が割礼屋を兼ねておりハサミでチョキンと切るそうだ(荘田ルリタテハさま提供) <割礼の方法> 主に縦に切って丸めていく方式(イスラムはこっちですが=衛生上のために)と 「縦に切って丸める」?そんなの知らんかった・・・なんか傷口がやたらとワイドそうで怖い。 <古代エジプト語で「男根」を意味するのは?> 一般的な「メト」、学術用語の「バフ」、「つわもの」という意味の「ウセル」や「つるはし」を意味する「ヘネン」などがあったそうだ。(ただしこれは便宜上現代風の読み方をしているだけであって、文字に母音を表記しなかった古代エジプト語が、実際にはどう発音されていたのかは永遠の謎である) 「つわもの」とか「つるはし」とか古代エジプト人の心情が手に取るように分かってしみじみする。数千年の時を隔てた現代でも、男性器を「バット」「マグナム」「暴れん棒将軍」などと呼ぶのと全く同じ感覚である。やはりどの時代でも男は夜のヒーローでありたいものなのだ。 |